逃避行
どうやら私は『好き』に執着して生きているらしい。
思い返せば、物心ついた時からいつの時代も明確に『好き』があった。常に『好きな何か』に熱中していた。
今の私の『好きな何か=好きな人』はアイドルの2人。
1人は憧れの人。もう10年を超え、私の頭の中にゆるやかに居ることが当たり前でありながら、見たことのない世界へ手を引いて連れて行ってくれる存在。
もう1人は愛おしい人。できるだけ夢を叶えてほしい、そのために私が出来ることなら何でもしてあげたくなる、高みへ向かう背中を押してあげたくなる存在。
ある日 突然『好きな何か』であった愛おしい人が目の前から姿を消した。
笑った顔がチャーミングで、色白の中性的なビジュアルで、負けず嫌いな努力家で、ふんわりした雰囲気に似合う声で、曲の世界観を表現するダンスで、実は色っぽい所作が得意で、良い意味であざとくて需要と供給を考えるクレバーさがあって、自己プロデュースに長けていて、ファンへの愛をいつも誠実に言葉で届けてくれて。いくらあげてもキリがない。魅力満点のアイドル。
本人は悪くない。周囲の人も悪くない。誰も悪くない。何も悪くない。何も責められない。お休みがあけるのを待つことしかできない。
ただ強烈な熱を持ったまま、消すこともできず、彼への「好き」は真空パックになった。
そして私の『好きな何か』の大部分は空っぽになった。
『好きな何か』のない生活はどこか張り合いが無くなり、面白みに欠け、淋しさしかなかった。
Jr.で新しいお気に入りを探してみた。前から好きだった女性アイドルのコンサートに行ってみた。どれも楽しくないわけじゃない。好きだと思う。でも私が求めているのは、強烈なまでの熱量を持つ『好き』、毎日が鮮やかに見える『好き』が欲しい。
そんな時、友人が私に韓国の女性アイドルグループと番組を教えてくれた。私の心情を汲んだわけではなく、単に彼女がハマって、誰かと楽しさを共有したかっただけだろうと思う。
でも、国が違えば、性別が違えば、思い出さない。淋しさから抜け出したかった私はKPOPへ逃げ込んだ。
IZ*ONE
韓国で放送されていたサバイバル番組出身の女性アイドル。メンバーそれぞれに魅力があり、たちまち私はグループが好きなった。そして自然な流れでメンバーが選ばれた番組であるPRODUCE48のことも、PRODUCEシリーズも好きになった。でもそれはただの好き。
PRODUCE48の新シーズンが放送され、どうやら次は男性アイドルらしい。
友人から聞かされた時、韓国の男性アイドルは興味ないけど、PRODUCEシリーズの新作だから見ようかなくらいにしか思ってなかった。
PRODUCE X 101
■グループ評価曲「LOVE SHOT」
センターをつとめた彼に目を奪われた。そして、憧れの人の顔が頭をよぎり困惑した。赤いスーツを着ているから?顔が似てるから?色っぽい曲を表現する表情が似てるから?ダンス?歌声?
■ポジション評価曲「私の思春期へ」
またセンターをつとめていた。圧巻の歌唱ステージ、なのに歌い終えた彼は泣き出した。またもや困惑した。彼の略歴を調べると、彼が精神的なストレスが原因で活動休止をしていた時期があることを知った。歌詞の意味と当時の気持ちがリンクして泣き出したのであろうというファンの方の考察を読んだ。真空パックに閉じ込めた愛しい人の顔が頭をよぎった。戻ってきて圧巻のパフォーマンスをすることを望んでいるから?戻ってきた時に彼が書いたファンに宛てた手紙*1から察する人柄が似ているから?ファンの需要に真摯にこたえる姿が被るから?
何に惹かれているのか分からない。私が彼に『好きな人』の2人の幻覚見ているだけで、本当に彼に惹かれているわけではないかもしれない。知りたい。糸口を探して、何度も何度も番組のパフォーマンス映像を再生した。何度も何度も彼が所属しているアイドルグループのMVを再生した。
自分の気持ちを知りたくて見ているのか、彼を知りたくて見ているのか、それすらも分からなくなった頃、番組のドキュメンタリー部分を見返した。
彼が8つ年下の少年に、丁寧に歌を教えている微笑ましい映像…ん???ヒョン???今自分のことヒョンって言った???え???
このヒョンというのは、韓国で男性が歳上の男性を呼ぶ時の愛称だそう。つまり日本語訳すると「お兄さん」
えーーーー自分のこと「お兄さん」って言うの???しかも「お兄さんの真似して歌ってごらん」って言ってるーーーーーーむり、すき!!!!!!!私も「お兄さん」って呼びたい!!!!!!!甘えたい!!!!!!
突然の偏差値3。
あぁ、幻覚を見てるわけじゃない。久しぶりの『好きな何か』の熱量、振り回される感覚。これは確実に新しい『好きな人』だ。なんてことはない、私はとっくに墜ちていたんだ。
逃避行
まさか異国の彼に墜落するなんて